研究概要 |
ネコ免疫不全ウイルス(FIV)は、HIV/SIV同様、T4リンパ球、マクロファージに感染する。このことは、ネコCD4(fCD4)がFIVのレセプターである可能性を示唆する。そこで、fCD4遺伝子をバキュロウイルス系で発現し、FIVのEnv蛋白とのinteractionの解析および精製fCD4蛋白によるFIV感染阻止実験を行い、この可能性を検証した。fCD4cDNAクローンpFT121のSmaI/ScaI fragment(2.1kbp)を含む組み換えバキュロウイルスAcFCD4およびAcFCD4transmembrane領域以下を欠失した組み換えバキュロウイルスAcFCD4T(-)を作成した。MoAbを用いた間接蛍光抗体法によりAcFCD4感染細胞表面に組み換えfCD4蛋白が検出され、免疫沈降法により60KDaの蛋白が検出された。また、AcFCD4T(-)感染細胞には、55KDaの蛋白(s-fCD4蛋白)が検出され、効率よく培養上清に分泌された。これらの組み換えfCD4蛋白とFIV Env蛋白のinteraction を解析するため、バキュロウイルスベクターで発現したFIV Env蛋白およびFIV SU蛋白とのco-immunoprecipitationを行った。その結果、fCD4蛋白とFIV Env蛋白とのaffinityは、検出されなかった。同様の実験系で、ヒトCD4とHIV Envとのaffinityは容易に検出された。さらに、s-fCD4蛋白を用いたFIV感染中和試験を行うため、AcFCD4T(-)感染細胞培養上清から、陰イオン交換クロマトグラフィー(Mono-Q,Pharmacia)のflow through画分を、陽イオン交換クロマトグラフィー(Mono-S,Pharmacia; 0-1M NaCl,10mMphosphate buffer pH6.0で溶出)により分画し、s-fCD4陽性画分をゲルろ過(Superose HR12,Pharmacia)により分画した。陽性画分をさらにMono-Sクロマトグラフィー(NaCl濃度を0.2Mよりステップグラジエントにより溶出)により分画し、0.25M NaCl溶出でs-fCD4をsingle peakとして精製した。精製s-fCD4をSDS-PAGE/CBB-R染色により解析した結果、単一バンドとして染色された。この精製s-fCD4を用いたFIV(Petaluma,TM2株)感染中和試験を行ったところ、20mug/mlのs-fCD4でも、両株とも感染中和は全く認められなかった。また、抗fCD4ウサギ抗体によるFIV感染阻止実験でも、感染阻止能は認められなかった。 以上の実験成績から、FIVは、近縁ウイルスであるHIV/SIVとは異なりfCD4蛋白を感染時のprimary receptorとして利用しないことが強く示唆され、fCD4蛋白以外のレセプターを利用していることが強く示唆される。またFIVは株によりfCD4(-)のCRFK細胞に感受性を示すものと示さないものがあるが、この差異が異なるレセプターを利用するためか、それ以外の増殖過程での違いによるのかは、今後の課題である。
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