健常犬より採取した血小板について、ADP、コラーゲン、エピネフリンに対する凝集能を比濁透過法を用いて測定した。健常犬のADP凝集はADP20muMでは不可逆的凝集を示したが、10muMおよび5muMでは凝集は起きた後に、徐々に解離するものや解離の見られないものまで個体による差が見られた。2.5muMでは一過性の可逆的凝集のみが認められ、凝集後すぐに解離した。またコラーゲン凝集では2.5mug/ml以上の濃度のコラーゲンを添加すると、血小板は形態変化を起こし、透過度が低下する。その後数十秒から数分のラグタイムをとり凝集が認められた。このラグタイムは濃度の上昇に伴って短縮していた。しかしながらコラーゲン1mug/mlでは血小板の凝集は認められなかった。一方犬の血小板はエピネフリン単独で刺激をしても凝集は惹起されなかった。しかし血小板にあらかじめエピネフリンを添加しておくことにより、ADPによる凝集能がエピネフリンの濃度依存的に亢進することが明らかとなった。このことは犬の血小板にもヒトと同様エピネフリンレセプターが存在し、エピネフリンが止血機構の一部分を担っていることが示唆された。 次に犬糸状虫のミクロフィラリア(mf)陽性犬の血小板凝集能を測定し、犬糸状虫感染と血小板の活性化について検討を加えた。mf陽性犬の血小板のADP凝集は健常犬では一過性の凝集しか認められなかった2.5muMで一時凝集に続いて二次凝集が認められ、最大凝集率、3分後凝集率でも健常犬に比較し明らかな高値を示したことから、凝集能の亢進があると考えられた。さらに2頭のmf陽性犬に血小板の凝集抑制作用を有するアセチルサリチル酸(ASA)を投与した後、血小板凝集能の推移を観察した。ASAを0.5mg/kgで連日経口投与を行い、投与開始より5ないし8週間後には2.5muMのADPに対する凝集は健常犬のレベルまで復していた。
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