本研究は、炎症に関連する生理活性物質の中皮細胞に対する作用に着目し、中皮細胞の有する受容体や産生物質に関する影響から、漿膜における生理的・病態生理的反応に対する中皮細胞の役割について明確にすることを目的として行った。 ラット胸膜の中皮細胞を使用し、まず、細胞内カルシウム動態を指標として炎症媒介物質として知られているヒスタミン、ブラディキニン、トロンビンに対する影響について検討した。その結果、いずれの物質も濃度依存性に中皮細胞の細胞内カルシウム濃度を上昇させた。この上昇は一過性の急激な上昇とそれに続く持続相から構成されていた。一過性のカルシウム濃度の上昇は細胞内貯蔵部位からの放出により、また、持続相は細胞外からの流入によることが明らかとなり、細胞外からのカルシウム流入機構には少なくとも電位依存性カルシウムチャネルの存在することが明らかとなり、さらに電位非依存性カルシウム透過性チャネルが存在する可能性も示唆された。 つぎに、これらの物質が中皮細胞のエンドセリン-1産生に及ぼす影響について検討を加えた。ブラディキニンとトロンビンは中皮細胞のエンドセリン-1産生を著しく促進した。この促進反応はフォスホリパーゼCの抑制剤であるネオマイシンの処置により抑制された。一方、電位依存性カルシウムチャネル遮断薬の影響はほとんど受けなかった。 以上の結果から、中皮細胞はヒスタミン、ブラディキニンおよびトロンビンに対する受容体を有すること、これらの物質は細胞内カルシウム濃度を上昇させること、そして細胞内カルシウム動態が中皮細胞の細胞機能発現に情報伝達系として重要な役割を果たしていることが明らかとなった。中皮細胞の有するこれらの機能は、漿膜における生理的・病態生理的反応に深く関与しているものと考えられた。
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