1991年秋から1993年冬にかけて東京都・多摩地区に生息する野性のタヌキ、ハクビシンおよびアナグマにイヌジステンパー類似の症状を呈し急性の経過で斃死する伝染性疾患が発生した。そこで、これらの野生動物、特にタヌキを中心に流行している本疾患の本態を明らかにする目的で病理学的検索を実施した。 1)検索材料:1991年10月〜1993年1月にかけて東京都・西多摩地区(2市2町)において斃死、衰弱あるいは頻死の状態で発見・捕獲された例のうちで病理組織学的検索が可能であったタヌキ20頭、ハクビシン1頭およびアナグマ1頭を用いた。衰弱・頻死例(10頭)では生前に脱水呼吸困難、漿液・膿性鼻汁排出、くしゃみ、水様性下痢、局所性脱毛、水・膿痘性皮膚炎、痙れんなどの症状が観察された。 2)剖検所見:全例に共通して、肺の全葉にわたる充・うっ血および硬化を伴った赤色の点状〜斑状病巣形成、胃・腸管における種々の程度の粘膜欠損を伴ったカタ-心性〜壊死性腸炎がみられた。 3)組織所見:顕微鏡病変として全例に各種臓器・組織における好酸性核内・細胞質内〓入体形成、肺胞・細気管支上皮の増生を伴った細気管支間質性(巨細胞性)肺炎、脱髄を伴った非化膿性脳炎、リンパ組織におけるリンパ球の減少、枯渇が認められた。また、好酸性〓入体の所在に一致してイヌジステンパーウイルス抗原の存在が免疫組織化学的に証明されるとともに、電顕的検索により好酸性〓入体がウイルスのヌクレオカプシッドであることが確認された。 4)まとめ:タヌキ、ハクビシン、およびアナグマにみられた急性伝染性疾患の原因はイヌジステンパーウイルス感染であることが明らかになった。そして、土地開発に伴う野性動物の生息域の縮少が本ウイルスの蔓延の機会をより増大させたものと推察された。
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