研究概要 |
ヒトTリンパ腫やイヌのリンパ肉腫では、これに合併して高カルシウム血症が認められ、その原因物質として腫瘍細胞が産生分泌する上皮小体関連タンパク(PTHrP)が着目されている。一方、地方病性ウシ白血病牛でもまれに高カルシウム血症が随伴してみられる(<5%)。そこで、全身諸所にリンパ肉腫が認められた地方病性ウシ白血病5頭から放血殺後ただちに腫瘍組織を取りだし液体窒素で凍結後、腫瘍組織よりmRNAを抽出し、ヒト上皮小体関連タンパク(PTHrP)のcDNA塩基配列を参考に作製したプライマー(PTHrP F2;5'-TCAGCTCCTCCATGACAAGG-3',PTHrP R1;5'-TCAGCAGAGACCTTCCAAGG-3')を用いて、逆転写酵素反応ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を行い、ウシリンパ肉腫にPTHrPの発現が認められるか検索した。その結果、対照材料として用いたウシの視床下部ならびに上皮小体から抽出したmRNAを使用してRT-PCRを行ったところ、アガロースゲル電気泳動により約440bpのバンドが検出された。一方、リンパ肉腫組織より抽出したmRNAを用いてRT-PCRを行ったところバンドは認められなかった。検索した5例の血清カルシウム値は9mg/d1以下であり、高カルシウム血症は認められなかった。またホルマリン固定組織標本を抗PTHrP抗体を用いて免疫染色を行ったところ、対照として用いた皮膚表皮は強陽性に染まったが、リンパ肉腫組織は陰性であった。以上の結果から、血清カルシウム値が正常範囲内の地方病性ウシ白血病牛の腫瘍細胞におけるPTHrPのタンパクならびに遺伝子レベルでの発現が認められる可能性は極めて低いことが示唆された。しかしながら地方病性ウシ白血病牛で高カルシウム血症を合併する例における成因を明らかにする課題が残された。
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