リステリア症の特徴病変は髄膜炎・髄膜脳炎であるが、臨床病変を解析するための良い実験モデルがない。今回は、前研究期間に確立したマウスのリステリア感染実験系を用いて病理発生を免疫組織染色及び電子顕微鏡により解析した。 実験(1)感染経路の違いによる感染病変像。 経口感染:脳内における血管周囲炎、小壊死巣、単核球を主体とした細胞浸潤巣が観察され、臨床で指摘される病巣に比較的類似の病理像が示された。脳内感染:急性の化膿性病変を示し、感染病巣は髄膜、脳室、脈絡叢が主である。感染24から48時間目の著しい脳室への好中球浸潤を特徴とする。感染部位への炎症性反応は溶血性株でのみ見られる。非溶血性変異株では病変形成が全く観察されない。 実験(2)脳病巣の免疫組織化学、電子顕微鏡観察。 経時観察: 1)脳室上衣細胞・脈絡上衣細胞内へ菌が侵入。 2)上衣細胞の剥離・細胞死。 3)変性細胞周囲への好中球主体細胞浸潤、上衣細胞下毛細血管内へ菌が侵入。 4)脳室周囲、脳内小血管周囲組織への菌侵襲。 5)脳室内の著しい好中球浸潤と組織破壊。 菌体抗原は、脳室に浸潤した好中球内・上衣細胞内・脈絡上衣細胞内・脳室上衣細胞周囲神経組織内に認められた。電子顕微鏡観察により、神経組織内の菌は軸索間・グリア細胞間に見られミクログリアによる食菌像が観察されたが、神経細胞内に菌体は観察されなかった。電子顕微鏡下では好中球内における菌体の破壊像は観察できなかった。 脳内接種により菌の感染初期像を捉えることができ、神経病変形成に菌の溶血性が重要な因子であることが明かとなった。しかし、この感染方法では病変形成が急性なため、臨床例で見られるマクロファージを主体とした免疫応答像を再現することができない。よって今後の課題は、持続的なリステリア感染をマウス実験系で確立して臨床例に近い中枢神経系病変を再現することである。
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