研究概要 |
酵母Saccharomyces cerevisiaeの2n‐1異数体が正常二倍体へ復帰する機構を解明するために,染色体数の異常の認識,細胞周期の進行停止による補助,過剰複製あるいは不分離による染色体の倍加について解析した。pSR1プラスミドの部位特異的組換えを利用してIV番染色体とXV番染色体のモノソミ-を,染色体分断法を利用してIII番染色体のモノソミ-を作製した。III番染色体はIV番染色体とXV番染色体よりも分子サイズが小さい。III番染色体モノソミ-の二倍体への復帰効率は,IV番染色体とXV番染色体のモノソミ-よりも悪かった。一方,IV番染色体モノソミ-にセントロメア型プラスミドや分断染色体を導入してセントロメアやテロメアの個数を補っても復帰効率に影響はなかった。したがって,染色体消失による遺伝子量のアンバランスが認識され,染色体の複製・分配に働くシス配列の個数は認識されないと考えられた。RAD9やBUB2遺伝子は,細胞周期の進行を停止してDNA傷害や二動原体染色体などの染色体異常の修復に機能する。RAD9遺伝子を破壊しても復帰効率に影響はなかった。また,対数増殖期の異数体細胞は,細胞周期において顕著な偏りは示さなかった。さらに,IV番染色体モノソミ-では分断染色体の脱落頻度が二倍体に比べ20倍高いことから,2n‐1異数体では任意の染色体の不分離の頻度が高いことが示唆された。増殖速度の差を指標として復帰効率の変化した変異株の分離を試みたが,変異株は得られず,現在,残存相同染色体に付与したマーカーを利用して変異株を分離しようとしている。以上の結果から,遺伝子量のアンバランスが認識された後,染色体の不分離によって残存相同染色体が倍加して復帰する機構が考えられた。また,復帰機構に細胞周期の進行の停止が働くかは,さらに検討する必要がある。
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