研究概要 |
走査電子顕微鏡の種々の標本製作法を用いて弾性線維を観察することにより,生体内における弾性線維の微細構造と配列様式を立体的に把握しその役割を検討することができた. 1.消化処理をしない普通の標本作製法でみた弾性線維は,エラスチン成分に微細線維(microfibrils)が絡まりついたような構造をしていた. 2.つぎに各種消化法で標本を処理すると,エラスチン成分のみが残り,その立体配列が明瞭に観察できた. (1)大動脈中膜のエラスチンは板状だが,その表面は線維状をしていた.出生前後のマウスの大動脈では,どの弾性板も細線維状のエラスチンが織り合わされた網状の薄膜になっており,この薄膜にエラスチンの細線維がどんどん積み重なって,板状の弾性板が作られていくことが明らかになった. (2)肺では,細気管支壁や血管壁のほかに実質内に広く弾性線維が分布し,それぞれの肺胞の口にあたる部分を輪状に取り巻いていた.一方,肺胞中隔に当たる部分にはエラスチンは乏しかった. (3)胸腔や胸腔臓器を包む漿膜上皮直下にはきわめて繊細なエラスチン線維網を観察することができた. (4)このように消化法でエラスチン成分を観察すると,その存在部位によってさまざまな線維形態をとっていることが直接観察できた.しかし,このエラスチン成分を拡大観察すると,どれも0.1-0.2mumほどの細線維が集まってできていることがわかった.この細線維の束ねられ方が,それぞれの組織におけるエラスチン成分の形態を決めているようにみえる.この点について今後さらに詳しい検討を行いたい.
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