研究概要 |
受精能獲得に関連する精子糖鎖抗原の探素とその役割の解析を行い、次のことを明らかにした。 1.精子成熟関連抗原の糖鎖構造の解析 我々はマウス精子成熟に伴って精子鞭毛表面に発現する分子54,000ダルトンのシアロ糖蛋白質(gp54)の糖鎖部分を認識する単クローン抗体を5種類(T21,MC71,MC81,MC91,MC121)作製している。マウス精巣上体尾部精子を貼付したELISAプレート上でこれらの抗体と種々のレクチンによる競合実験を行い、抗原抗体反応の阻害程度を定量化した結果、gp54はその糖鎖末端にシアル酸alpha-2,3ガラクトースbeta‐1,3N-アセチルガラクトサミンの3糖構造有することが明らかになった。 2.精子成熟関連抗原gp54の産生細胞の分布 MC81を用いた免疫組織細胞化学実験の結果、精巣上体遠位頭部から精管精巣上体部にかけての主細胞がgp54を産生していることが明らかになった。 3.精路におけるgp54の抗原量と抗原隠蔽(マスキング)の程度 マウス精路の種々の部位より採取した精子を10^5sperm/wellずつELISAプレートに貼付し、MC81を用いてシアリダーゼ処理の有無でELISAを行い、精路部位別の精子数当たりの抗原量と抗原隠蔽の度合いを比較した。その結果、主細胞がgp54を産生している範囲では精子に結合しるgp54の量が増加し、抗原隠蔽の度合いが大きくなっていた。一方、精管自由部では精子に結合したgp54の量は減少し、抗原隠蔽の度合いは小さくなっており、このことはgp54産生細胞の消失による抗原供給量の低下と結合シアル酸の減少によると考えられた。 以上の結果より、gp54の糖鎖末端に存在するシアル酸による精子の抗凝集作用および抗貧食作用は、精巣上体管内では上昇する一方、精管内では減少していることが推測され、この現象は精子の成熟と老化に密接に関連していると思われた。
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