深部体温の上昇につれ、非蒸散性熱放散反応としての皮膚血流量と蒸散性熱放散反応としての発汗量が増加する。これら体温調節反応の大きさは、体液量や循環血液量の多寡により修飾される可能性がある。本研究では、体液量や血漿浸透圧を変化させず、有効循環血液量のみを変化させる目的で下半身陰圧負荷を選び、有効循環血液量の変動が高体温時の末梢皮膚循環と発汗反応をいかに修飾するか検討した。下肢加温装置の中に下半身陰圧ボックスを入れ、この装置内で空気が循環スルようにして50、100、150mm<HO>___2の軽度の下半身陰圧をランダムに負荷した。各負荷は安静3分間、負荷4分間、回復3分間とした。下肢加温装置により深部体温を上昇させ発汗量が増加し安定した後、下半身陰圧負荷実験を行った。食道温、鼓膜温、平均皮膚温、平均血圧及び心拍数は下半身陰圧により有意な変化は認められなかった。発汗量は下半身陰圧負荷開始後一時的に減少した後緩やかに増加したが、負荷前のレベルより低かった。負荷解除に伴って皮膚血流量と発汗量は緩やかに増加した。発汗量の減少の程度は部位により異なり、前額、胸、大腿、前腕の順に大きくなった。発汗拍出頻度は身体各部位で一致し、下半身陰圧負荷直後に一時的に減少した。次いで、0、50、100mm<HO>___2の下半身陰圧を負荷した状態で深部体温を上昇させた。発汗が開始し始める閾値平均体温は下半身陰圧負荷により上昇した。平均体温の上昇に対する発汗量の増加の割合は下半身陰圧負荷により減弱した。以上から、有効循環血液量の減少は末梢皮膚循環や発汗反応を抑制することが判明した。この発汗抑制反応の要因として静脈環流量減少に伴う低圧系心肺圧受容器反射の関与が推察された。また、発汗抑制反応には部位差が認められ、前額部では蒸散性熱放散の抑制反応が起こりにくいことが判明した。
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