c-jun遺伝子さまざまな増殖シグナルを介して誘導されることが知られている。今回我々は、チロシン燐酸化酵素カスレ-ドを介したc-jun遺伝子の発現誘導の作用機構を、活性化型チロシン燐酸化酵素として知られているv-Src遺伝子産物を用いて解析した。v-Src蛋白の発現プラスミドとjun-CAT〔c-junプロモーターとCAT(chloramphenicolacetyltransferase)とのキメラ遺伝子〕をともにHeLa細胞内で発現するとCAT活性の増強が観察された。すでにv-Src応答配列として知られているAP-1結合配列に加えて、CAATボックス様配列を含む領域〔v-Src応答領域(SRR)〕がc-junプロモーターのv-Src活性化に関与することが示された。v-Srcによるc-jun遺伝子発現の活性化はc-Fos蛋白によって抑制された。c-Fosはc-fosプロモータの発現をCArGbox配列を介して抑制することが知られているが、SRRはCArGbox配列を含んでいない。従って、c-Fosによるc-junの抑制作用はc-fosの場合とはその作用機構が異なることが示唆された。一方で、ウイルス由来のv-Fosにはc-junプロモーターの抑制活性は検出されなかった。v-Fosではc-FosのC端に相当する部分が欠失し、他のペプチドと置き変わっている。実際に、この抑制にはc-Fosの端領域が重要であることが示された。この領域は、c-Fos蛋白の燐酸化部位として知られ、この部位の燐酸化がc-fosプロモーターに対する抑制作用に必須であることが示されている。従って、c-junプロモーターの抑制においてもc-Fosの燐酸化が関与すると推定される。 今後の計画 SRRには複数の細胞因子が結合する。いずれの因子がv-Srcによる活性化およびc-Fosによる抑制化を仲介しているかを解明する。さらに、c-jun遺伝子の一過性発現におけるSRRの役割を解明する。
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