神経系の発達過程において多種多様な細胞認識・接着分子が重要なはたらきを演じている。申請者は、特にマルチ・ジーン・ファミリを形成し複雑な神経回路網形成に必要な多様性を分子内につくりうるイムノグロブリン・スーパーファミリー(IgSF)に着目し、新規分子の探索を行ってきた。その結果、混合プライマーを用いたPCR法を用いた実験により、神経系に特異的に発現するふたつの新規IgSF分子(BIG-1、BIG-2)を発見した。平成5年度においては、BIG-1、-2の一次構造の解明、詳細な発現様式の解析、さらに機能的役割の解析を行った。 1.BIG-1及びBIG-2の一次構造の解明 PCR法で得たcDNA断片を用いてプラーク・ハイブリダイゼーション法により、ラット脳cDNAライブラリーをスクリーニングした。その結果、BIG-1に関してはその全一次構造を、またBIG-1に関してはその翻訳領域の大部分を決定することができた。ホモロジー検索によって、BIG-1、-2ともにIgSFの中のTAG-1/F3サブグループに属することが明らかとなった。 2.BIG-1及びBIG-2の発現様式の解析 ノザン・ブロット法によりBIG-1、-2ともに神経系に特異的に発現していることが確認された。また、その発現量は胎生期には非常に低く、出生後増加しはじめ、成体において最高となることがわかった。さらにinsitu hybridization法によってその詳細な分布を調べたところ、BIG-1、-2ともに神経細胞のサブセットに発現しているが、その局在は大きく異なっていた。例えば、小脳においてはBIG-1はプルキンエ細胞、BIG-1は顆粒細胞、海馬においてはBIG-1は歯状回、BIG-2はCA1領域というように異なった神経細胞に発現していた。 3.BIG-1による神経突起伸長促進作用の発見 全一次構造が決定されたBIG-1に関して機能アッセイを行った。遺伝子工学的に産生したBIG-1タンパク質をコートしたプレートにラット小脳細胞を培養すると、顕著な神経突起の伸長が観察された。
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