研究概要 |
本研究では、肝のリポ蛋白放出能に及ぼす交感神経の作用機序を解析するため肝灌流法を応用した“神経一肝"標本を用いて実験を行い、以下の成果を得た。 1)抗ラットアポ蛋白B抗体の作成:ラットの血漿から超遠心法にてVLDL分画を調整し、これからアポ蛋白Bを精製した。精製したアポ蛋白Bを抗原としてウサギに免疫し、ラットアポ蛋白Bに対する特異抗血清を作成した。この抗血清はウエスタンブロット法でみると、ラット血漿中のアポB100およびアポB48の2つの蛋白と特異的に反応した。 2)灌流肝からの中性脂肪及びアポ蛋白Bの放出:ラット肝をin situで門脈から一定の流量を保ちながらrecirculation法によって灌流し、灌流液中に蓄積してくる中性脂肪を経時的に測定すると、灌流開始後120分まで時間とともにほぼ直線的に増加することから、この灌流条件では中性脂肪は肝からほぼ一定の割合で放出されることが判明した。中性脂肪は肝からVLDLの形で放出されるので、VLDLの主要アポ蛋白であるアポ蛋白Bの灌流液中の変化を上記の特異抗血清を用いたウエスタンブロット法にて調べると、アポ蛋白Bも時間とともに灌流液中に増加することがわかった。 3)肝からの中性脂肪及びアポ蛋白Bの放出に対する肝神経刺激の影響:ラット肝を灌流しながら60分目から120分まで肝神経を20V,20Hzの強さで間歇的に電気刺激すると、灌流液中の中性脂肪の蓄積量はコントロールの約60%にまで抑制された。このとき、脂肪酸量の増加は認められないことから、中性脂肪蓄積量の低下は、脂肪分解が促進されたためではなく、肝からの放出が抑制されたことによると考えられる。同様の効果は神経刺激のかわりに、交感神経伝達物質であるノルエピネフリンを投与した場合にも程度は弱いながら認めることができ、交感神経の作用であることが示唆される。また、アポ蛋白Bの放出に対する神経刺激の影響も検討したが、ウエスタンブロットによる定量では個体間のばらつきが大きく、有意差は認められなかった。 以上の実験結果より、肝からの脂肪放出に対して、肝交感神経は抑制的に働くことにより、その調節に関与していることが推測される。
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