現在、ミトコンドリア形成制御に関してのin vitroのモデル系は非常に少ない。本研究では電子顕微鏡的には細胞質内に充満するミトコンドリア像がこの腫瘍の特徴であるオンコサイトーマの初代培養系を確立しその分子生物学的特徴を明らかにし、更にはその病因遺伝子を同定することにより、ミトコンドリア形成制御の機構の一端を解明する端緒とすることを目的とした。 先ず、Hurtle細胞陽性の甲状腺腫の一部を手術検体から得(倫理委員会許可済)、電子顕微鏡にてミトコンドリア様構造物の充満像を確かめた。本腫瘍組織からDNAを抽出し、ミトコンドリアDNAの増加の有無をサザンブロット法にて確かめた結果、コントロールとして用いた甲状腺機能亢進症や甲状腺腫のDNAに較べ2-5倍ミトコンドリアDNA量が増加していた。またチトロームCオキシダーゼの電子顕微鏡を用いた活性染色の結果、細胞質内のミトコンドリア様構造物はコントロールに較べ強く活性が認められた。その結果、本腫瘍では生理活性およびミトコンドリアDNAを有するミトコンドリアが細胞質内に増加していることを直接証明した(日本組織細胞化学会に発表)。 次に、この検体から腫瘍細胞の初代培養を、グルコース添加培地、グルコース除去培地の二通りの培養条件下で試みた。その結果、継代を重ねるにつれ線維芽細胞の混入が激しく腫瘍細胞のクローン化は困難であった。また初代培養細胞に複製開始点欠失SV40DNAを遺伝子導入し細胞のクローン化を試み、約20個のクローンを得た。得られた細胞からDNAを抽出し、サザンブロット法にてミトコンドリアDNAの増加を検討した結果約20倍前後の変動しかなく、またロダミン123を用いてミトコンドリアの生染色を行いフローサイトメトリーにてミトコンドリアが増加しているか否かを検討した結果、コントロールとの間に有意の差は認められなかった。クローン化した細胞が上皮由来でなく繊維芽細胞由来である可能性や、また上皮由来であってもSV40DNAを導入したためにミトコンドリア異常増加の形質を落としてしまった可能性もあり現在検討中である。また培養条件によってもミトコンドリア量は影響を受ける可能性があり、今後の検討が必要である。
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