各種モノクローナル抗体を用いて大動脈-冠状動脈バイパスグラフト(SVG)の内膜肥厚部における平滑筋細胞の多様性を検討した。手術早期のSVGでは平滑筋細胞の中間径フィラメントはビメンチンが優勢を占めており、デスミンを発現している平滑筋細胞は全体の1%以下であった。電子顕微鏡による観察ではほとんどの内膜平滑筋細胞は合成型であり、本来の血管に存在する収縮型平滑筋細胞とは異なっていた。これにより内膜平滑筋細胞は活発な細胞外基質の合成作用を持ち、内膜肥厚に重要な役割を演じていると思われた。Class II antitransplantation antigenの一つであるHLA-DR抗原の発現は全平滑筋細胞の約10%にみられた。細胞の増殖の指標として用いたproliferating cell nuclear antigen(PCNA)に陽性を示す内膜平滑筋細胞は全体の5%以下であったが、これらの細胞はそのほとんどが内皮細胞直下の内腔側に位置しており、この部位が内膜肥厚の成長点であることが推測された。エンドセリン-1(ET-1)を用いた免疫染色の結果はヒトの大動脈の動脈硬化巣で我々が以前報告したものと同様であった。すなわち、内皮細胞に非常に強い染色性がみられ、内膜平滑筋細胞は弱い染色性を示した。この結果から、内皮細胞によって産生されたET-1はレセプターを介して内膜平滑筋細胞に取り込まれET-1が局所のパラクリンとして作用しているか、あるいは平滑筋細胞自体がET-1を産生していることが示唆された。これを解明するためにはET-1に対するメッセンジャーRNAをin situ hybridization法によって検出すると思われ、今後の課題とした。
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