臨床的に早期の乳がん症例の中から再発・死亡する可能性の高い症例を選び出すための客観的指標を見いだす目的で、過去に当施設で外科切除されたリンパ節転移陰性(n0)かつ腫瘍径5cm以下の症例で2年以内に再発し最終的に乳がんの転移で死亡した32症例と、これらの各症例と年齢・腫瘍径が一致し、かつ10年以上健在した 122症例を選び出し、これらの症例に対して組織学的所見の検索ならびに p53蛋白の核内蓄積、c-erbB-2蛋白の過剰発現、カテプシンDの発現低下に関する免疫組織化学的検索を行った。再発群と非再発群の間で最も差があったのは組織学的異型度であり、前者では59%(19例)が最も異型度の高いGrade3の症例であったのに対し、後者ではGrade3は7%(9例)のみであった。また p53の核染色性も両群間で有意な差を示し、再発群では41%(13例)に陽性であったが、非再発群の陽性律は16%(20例)にとどまった。c-erbB-2の頻度は両群間で有意な差はなく、カテプシンDの発現低下も再発群でより高頻度であったが顕著な差ではなかった。多変量解析により各因子の中で独立した最も強力な再発危険因子は組織学的異型度で、Grade3の群はより異型の乏しいGrade1や2の群の約60倍の2年以内再発危険率を示した。 p53の核染色性も再発危険因子として約2倍の危険率を示した。p53の核染色性は高い組織学的異型度とも関連した。以上の結果から、予後不良のn0乳がん症例の選別に組織学的異型度だけでなく、p53の核染色性も有用であることが示唆された。今後プロスペクティブな検討も併用し、今回の研究成果を確認した後、実際の診療への応用を目指す予定である。
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