ウィルムス腫瘍は出生約一万人に一人の割合で乳幼児期に発生する腎臓腫瘍の一つで、近年ウィルムス腫瘍が多発するWAGR症候群で染色体欠失の認められている第11番染色体13qに位置する遺伝子(WT1)が単離された。WT1遺伝子が癌抑制遺伝子である可能性が提起され、数症例で遺伝子の異常も報告された。我々はウナギにおいて、病理組織学的にヒトウィルムス腫瘍ときわめて類似した腎芽腫が多数自然発生することを見いだした。ヒトのWT1遺伝子が胎児期の腎芽発生の時期に特に発現することから、ウナギに発生する腎芽腫はヒトウィルムス腫瘍の発生機構を考える上できわめて有用なモデルになると考えられた。 ヒトWT遺伝子をプローブとしてウナギDNAについてSouthern hybridizationを行ったところ、 hybridizeするbandが認められたことから、系統的にヒトと隔たった種においてもこの遺伝子はよく保存されていることが予想され、ウナギよりWT1遺伝子を単離し、ウナギ腎芽腫におけるWT遺伝子の関与について検討を行った。ヒトWT遺伝子との塩基配列の相同性はzincfinger domain内で78%と高率であった。また、アミノ酸レベルでの相同性は75%であり、類似アミノ酸配列を加えると90%であった。さらにzinc finger domainにおけるアミノ酸のconsensus sequenceはすべて一致していた。従って、WT1遺伝子内のzinc finger domain領域は非常によく保存された重要な遺伝子の構成部分であることが明かとなった。また、ヒトWT遺伝子の各臓器での発現は胎生時の腎臓、精巣及び脾臓で認められるが、RT-PCRを行った結果ウナギの場合も同様に腎臓及び精巣で発現していることが判明した。成魚ウナギの場合、腎臓は造血機能を兼ね備えた前腎および後腎から構成されているがWT1遺伝子の発現は両腎臓で認められた。しかし、WT1遺伝子のzinc finger部分の変異について腫瘍で検討を行ったが、現在までのところ遺伝子の異常は検出されなかった。
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