研究概要 |
大腸癌に認められる形態異常の発現メカニズムを解明するため、大腸腺癌培養細胞株を用いて分岐構造やbuddingをin vitroで再現する実験系の作成を試み、さらに、確立した実験系を用いて形態像の変化の機序を明らかにするために、形態に変化に伴う細胞増殖能の変化と遺伝子発現の変化を検索した。胃・大腸腺癌細胞株8株をコラーゲンゲル内で培養した結果、その内の1株が線維芽細胞培養上清(FCM)の存在下で中心部の球形部分から細胞が突起上に伸び出し、分岐構造に形態が変化した。中心部の球形部分は1から2-3層の細胞の殻から成り、内部は空洞構造を示したが、内腔側への粘液産生は明らかには認められなかった。また、突起部分は細胞が充実性に存在し、内部には腺管形成は認められなかった。分岐構造に関してはvivoを模倣している一方で、腺管形成の点では細胞株の分化度は低く、vivoとの相違点となった。形態変化に伴う細胞数の変化を計測した結果、分岐構造と細胞増殖能は相関が認められず、形態の変化を増殖能の変化では説明できなかった。一方、上皮の形態形成には間質のremodellingが強く影響することから、コラーゲンの分解に関与する間質型コラゲナーゼ(MMP-1)及びそのインヒビターであるTIMP-1,2の関与を想定し、形態変化時における発現の変化をノザン解析で検討した。これまでの、FCMによるMMP-1,TIMPの発現変化は認められず、形態像の変化を間質のremodellingの変化によって説明し得る結果は得られていない。今後は、分岐構造部分に腺管形成が認められ、vivoにより近い形態像を持つ実験系を作成することが課題となった。また、形態変化のメカニズムを解明するため、線維芽細胞によって発現が誘導される遺伝子のスクリーニングも行っていく予定である。
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