われわれは、これまで血小板由来増殖因子(PDGF)が正常脳神経細胞で広汎に発現されていることを示してきた。 本年度の研究では、 1。ラットの局所脳虚血モデルを用いて、1)northern blotにより、虚血侵襲後きわめて早期より虚血部近傍で、PDGF B鎖のmRNAの増加があり、とくに通常より短いmRNAの顕著な増加が見られた。2)PDGF A鎖の発現には著変を認めなかった。3)免疫組織化学により、梗塞周囲の神経細胞にPDGF B鎖の染色性の増強が見られた。4)虚血巣には多数のPDGF B鎖の陽性免疫反応産物を有するmacrophageが集積した。虚血脳におけるPDGF B鎖の発現亢進を明らかにし、脳損傷治癒におけるPDGFの役割を示唆する所見を示した。 2。ラット脳の刺創モデルを用いたPDGF B鎖の免疫組織化学により、1)損傷後早期に、瘡部周囲の神経細胞に免疫反応の増強があった。2)その後、瘡部に多数のPDGF B鎖陽性のmacrophageが集積した。3)これとほぼ一致した時期に、瘡部への血管新生や瘡部周囲への反応性astroglia細胞の集積が見られた。脳の損傷治癒過程におけるPDGF B鎖の役割が示唆された。 3。ラット嗅脳移植モデルを用いたPDGF B鎖の免疫組織化学から、1)ensheathing glial cellに強い反応が見られた。2)移植片から伸長するaxon周囲にPDGF B鎖の陽性反応を示すensheathing glial cellが分布した。神経細胞の可塑性にPDGFが関与することが示唆された。 以上本年度は、ラット脳の損傷部位および移植におけるPDGF B鎖の発現をmRNAおよび蛋白レベルで示し、脳の損傷治癒過程におけるPDGF B鎖の役割を示した。
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