本研究は、家兎気管において幹細胞と考えられている基底細胞が、粘液細胞過形成や粘液過分泌という病態形成時に、いかなる役割を担っているのかを、脱上皮気管培養法を用いて検討することを目的として行われた。非分画細胞を用いて形態学的検索を主として行った昨年度に引き続き、今年度は培養管としての脱上皮気管内に分泌された粘液の性状を生化学的に分析した。その上で、高純度で分離した基底細胞クローンを用いた研究へと進めた。 (1)非分画細胞を用いた生化学的分析法の確立---昨年度同様、in vivo培養開始4週間後に、human neutrophil elastase(以下HNEと略、300mug/気管)による刺激を行った。その3週後に気管を摘出すると同時に、内腔に貯留した粘液を回収し量を測定したのち、粘液は凍結保存し、必要に応じて、ph、総蛋白、フコース、シアル酸量を測定した。各々、刺激群では、6.2±0.1、31.8±9.2mul、62.0±4.2mg/ml、1.2±0.1mg/ml、1.9±0.1mg/ml、対照群では、8.1±0.3、34.8±4.2mul、18.5±2.2mg/ml、0.5±0.1mg/ml、0.59±0.1mg/mlであった。粘稠度も前者で増加していた。以上から、生化学的にもHNEにより、粘液、特に酸性糖蛋白の分泌増加が示唆され、HNEによる粘液細胞過形成・粘液過分泌モデルが確立されたと考えられた。 (2)基底細胞を用いた研究---クローン化した基底細胞および非分画細胞を用いて、上記と同様の条件で刺激実験を行った。基底細胞クローン/刺激群の一部に、粘液貯留によりビア樽状に拡張したグラフトが認められたが、全体としては、形態的にも・生化学的にも、刺激群・対照群いずれにも明かな過形成・過分泌はみられなかった。In vitro培養を経てクローン化した細胞はもともと増殖分化能が劣ることが、筆者の研究で明らかにされているので、引き続き新鮮分離細胞を用いて研究を進める予定である。
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