免疫電顕的検索により、4-aminopyrazolopyrimidine(4-APP:脂質過酸化反応促進剤)を投与したラット肝臓では、過酸化脂質の還元酵素であるグルタチオンペルオキシターゼ(GSH-PO)が、ミトコンドリア内に増大していることが判明した。また、この試料から細胞分画法により分離した細胞質分画とミトコンドリアのそれぞれの分画のGSH-PO酵素活性を測定し比較したところ、免疫電顕と一致した結果が得られた。更に、抗癌剤であり、また、強力な脂質過酸化促進剤でもあるアドリアマイシンについても4-APPと同様な作用があることが判明した。以上の結果から、脂質過酸化反応を起因としたGSH-POのミトコンドリア内への移送促進モデル動物を二つ作製することができた。熱ショック蛋白質が、脂質過酸化反応により増大してくる事が報告されており、また、その細胞防御機構への関与が注目されているが、その機構は詳細には判っていない。脂質過酸化反応の障害が最も顕著に現れる細胞小器官がミトコンドリアであること(膜に富み、脂質を多く含むため)、熱ショック蛋白質がミトコンドリア内への蛋白質の移送を担っていることを考慮すると、今回作製したモデルにおけるGSH-PO(脂質過酸化防御修復酵素)のミトコンドリア内増強作用は、熱ショック蛋白質を介した細胞防御機構の作用機序の一面を示唆していると考えられた。現在、このモデル動物を用いて最も多量に誘導される熱ショック蛋白質の同定とその免疫電顕的観察を行うことによりGSH-POの移送促進機構の検索を進めている。 GSH-POのcDNAとT3、T4 RNA polymeraseを用いたin vitro転写反応によりGSH-PO mRNAを大量に合成する事に成功した。次に、このmRNA用いin vitro翻訳反応を行いde novo合成のGSH-PO蛋白が得られた。現在、このGSH-PO蛋白と分離したラット肝細胞のミトコンドリアを混合しin vitroのGSH-POの移送系を作製し、これに熱ショック蛋白を加え、その移送速度の測定を試みている。
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