チフス菌のVi抗原の発現に必要な環境因子を調べるため種々の条件下で培養しVi抗原の産生量について検討した。Vi抗原の生産量は抗Vi抗体を用いた凝集反応で判定量的に調べた。培地成分、温度ならびに培養方法を検討した結果、Vi抗原の発現は温度に依存し、37Cで最も強く発現されたが、20Cでは発現されなっかた。好気培養より嫌気培養または5%の炭酸ガス培養のほうが産生量が増加した。Vi抗原の産生量とVi多糖の生合成酵素量とが相関するかどうかを調べるためVi多糖のkeyenzymeをコードしているvipA遺伝子にプロモタ-の欠失したcat遺伝子を挿入しvipA産物の発現量をCAT活性を指標にして調べた。20Cに比べ37CではCAT活性は20倍以増加し、また好気培養より嫌気培養または炭酸ガス培養のほうが2倍以上CAT活性が増加した。このことからVi抗原の発現はvipAの転写レベルで調節されていることが明らかになった。 Vi抗原の制御因子を同定するためvipA:cat fusion株を用いCAT活性の低下した変異株を分離した。変異株は少なくとも2つ以上のグループに分けられた。一つはvipA遺伝子の上流に見いだされたorf(vipRと命名)に変異をもつグループであった。vipRの変異株は親株に比べ100以上CAT活性が減少していた。VipRの推定アミノ酸配列からvipR産物は分子量21000で塩基性タンパクでありC末端にヘリックス-ターン-ヘリックスの構造を有しDNA結合性の制御因子であると考えられた。vipRの発現量は上記培養条件下でのVi抗原の発現量と相関することからvipRが環境因子により発現調節をうけ、発現されたvipR産物がvipAの発現を調節していると考えられた。他の一つののグループは大腸菌のrcsbに対応する遺伝子に変異を持つものであった。親株からこの遺伝子をクローニングした結果、大腸菌のRCSBと98%以上の相同性が認められた。
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