現在、臨床から分離されるMRSAの約30%は中等度あるいは、軽度耐性MRSAである。しかしこれらのMRSAは、30℃における培養や、培地に5%Naclを添加することにより一部のpopulationが高度耐性化する、いわゆるヘテロタイプMRSAである。 ヘテロタイプMRSAにおいては、メチシリン8〜16mug/mlで多くのpopulationの増殖は阻止されるが、10^4〜10^8個に1つの割合のpopulationは高度耐性(メチシリンに256mug/ml以上)を示す。我々は、このような特異的耐性パターン発現のメカニズムについて、mecレギュレーター遺伝子との関与について検討した。まず、完全なmec制御遺伝子を持ち、メチシリンに感受性を示す、プロトタイプMRSA N315株から、ヘテロタイプMRSA株の分離を試みた。すなわち、30℃及び37℃による耐性度の変化する温度感受性変異株を10^8〜10^9分の1の割合で得ることができた。これらの株のメチシリン耐性度をpopulation解析したところ、ヘテロタイプ耐性パターンを示した。 そのmec regulator領域の塩基配列を決定したところ、オペレーター領域にポイントミューテーションが導入されており、mecAの転写発現が、構成的になっていた。 臨床から分離されたヘテロタイプMRSAJO60株も、まったく同じミューテーションが導入されていた。すなわちオペレーター領域のポイントミューテーションがおこると、相補性が失われ、ステムアンドループ構造が完全でなくなり、mecIの制御機能が失われ、mecAが転写される。また、その転写は温度依存性であることがわかった。
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