1.恙虫病リケッチアの56kDa蛋白の発現系の開発 我々はこれまでにこのリケッチアの表在性56kDa蛋白がリケッチアの血清型を決定すること等を明らかにし、さらにこの蛋白の遺伝子解析からその全アミノ酸配列を決定した。本研究はこの蛋白の病原因子としての役割を解析するため、大腸菌でこの56kDa蛋白を発現させる系の開発に努めた。 56kDa蛋白の遺伝子領域をPCR法により増幅し、pETベクターに組み込んで、その大腸菌組み換え体を得た。次にIPTGでこの組み換え体の発現を誘導した結果、誘導後数時間後に56kDa蛋白が大腸菌の蛋白中で最も主要な蛋白として認められた。すなわち、我々が構築した発現用プラスミドは多量の56kDa蛋白の発現を可能にすることが判明した。これにより今後この蛋白の機能解析が可能となり、さらに診断用抗原としての利用も可能となるものと期待される。 2.恙虫病リケッチアの16SrRNA遺伝子解析による分類学的位置付けに関する研究 リケッチア属はチフス群、紅斑熱群及び恙虫病群の3群に分類される。本研究では恙虫病リケッチアの16SrRNA遺伝子をPCR法より増幅し、その塩基配列をダイレクトシーケンス法より決定して、それらを他群のリケッチアの配列と比較した。その結果、チフス群及び紅班熱群リケッチアの3菌種間では6-27個の塩基置換が見られ、その相同性は98.1-99.6%であった。また、恙虫病リケッチアの株間では9個の塩基置換が見られ、その相同性は99.4%であったが、他群のリケッチアとの間では約140個の塩基置換が認められ、その相同性は90%であった。この結果は恙虫病リケッチアがリケッチア属の中で他群のリケッチアと離れた関係にあることを示すものであり、このリケッチアに分類学上、他のリケッチアを区別される新たな属名が付されるべきであると考える。
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