研究概要 |
yersinia enterocolitica は耐熱性毒素(YST)を産生する。しかし、毒素遺伝子(yst)が存在するにもかかわらず、産生しない株や保存中に産生できなくなる株が存在する。その遺伝子発現を制御している領域が存在している可能性が考えられた。また、YST産生能だけでなく他のいくつかの生化学的性状も同時に変化していることから、広範囲の遺伝子発現を制御していると思われた。この制御機構を解明するために本年度は制御領域のクローニングを試みた。YST産生株より調整した染色体DNAをSau3AIで部分消化し、得られた断片をベクターに挿入した。これをエレクトロポレーション法によってYST非産生株に導入した。3604個のクローンより、YST産生に形質転換した株を1株得た。この株はYST産生能だけでなく、コロニーの色や増殖速度もYST産生株と同様に変化した。しかし、いくつかの生化学的性状は回復しなかった。この株より得られたプラスミド(pN1)は4.2kbの挿入断片を含んでいた。サブクローニングの結果、YST産生を回復させる領域は101個のアミノ酸からなる分子量12,400の蛋白質をコードしていた。この遺伝子をyersinia multiple regulator(ymr)と名付けた。pN1を用いて他の陰性化した株を形質転換したところ、これらの株でもYST産生能が回復した。また、他の陰性化した3株についてDNA塩基配列を調べると、いずれの株もymrオープンリーディングフレーム内に変異が認められ、その変異の結果yst発現が抑制されていると思われた。ymrについて既知の遺伝子とのアミノ酸レベルでのホモロジー検索を行ったところ、大腸菌の変異修復遺伝子、miaAのすぐ下流に存在するORF1と約90%の高い相同性が認められた。
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