1.C型肝炎ウイルス(HCV)のエンベロープタンパク(env)E1に対するヒト抗体の検出系の構築 組換えE1をバキュロウイルス-昆虫細胞系で発現させた。発現したE1(816タンパク)の可熔化には高濃度の尿素による変性が必要だったため、精製は困難だった。E1の疎水性のアミノ酸配列を一部欠損させて発現させたところ、生理食塩水に可溶性のE1(813dタンパク)を培養上清中に分泌させることに成功した。813dタンパクを硫安分画、陽イオン交換クロマト、糖鎖アフィニティークロマトで部分精製した。部分精製した813dタンパク、又は尿素で抽出した816タンパクを抗原として用い、ヒト血清中の抗E1抗体を検出するELISA系を構築した。 2.HCV保因者、患者血清中の坑E1抗体の検出 第1世代HCV感染検査法で陽性となった供血者(保因者)402例、C型肝炎患者70例の血清中の坑E1抗体の検出を上述のELISA系を用いて行なった。陽性は、保因者で32例(8.0%)、C型肝炎患者で6例(8.6%)とほぼ同率となったことから、発病の有無と坑E1抗体の検出率に相関は無いことが示された。我々の研究でHCV感染者の80%以上がコアタンパクに対する抗体を持つのが示されているのに比べると、坑E1抗体の検出率は著しく低い。これは、坑E1抗体を欠くこととHCV感染との相関を示唆しており、坑env抗体がHCV感染の防御に重要であることを間接的に示している。これを証明するために、今後は汚染血液の輸血を受けても感染しなかった例、感染から回復した症例の血清を収集して坑env抗体を測定し、坑env抗体と感染防御の相関を直接示す必要がある。 3.envに対するモノクロナール抗体の作製 E1に対するマウスモノクロナール抗体を作製した。この抗体と同一の抗原部位を認識するヒト抗体を検出する競争阻害ELISA系を構築する予定である。
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