インフルエンザウイルスは、8本の(-)鎖RNAをゲノムとして持ち、感染した宿主細胞核内でPB1、PB2、PAという3つのサブユニットからなるRNAポリメラーゼを用いて、転写、複製を行なう。これまでにウイルス粒子から精製したRNAポリメラーゼにより、転写についての研究は進んでいたが、ウイルス粒子由来のRNAポリメラーゼでは、複製活性は検出できず、その研究は遅れていた。 今回、インフルエンザウイルスゲノムRNAの複製を試験管内で行なわせるために、ゲノム第8分節の両末端を持つ53ヌクレオチドのモデル鋳型を用いて、プライマー非依存性に行なわれるRNA合成を指標にして、ウイルス感染細胞から複製活性を持つRNP画分を抽出した。このRNP画分は、0.5MKClを含むグリセリン濃度勾配遠心にて分画することにより、ジヌクレオチドApG依存性の転写活性は保持したが、複製活性は喪失した。そして、その遠心上清画分又は、非感染細胞核抽出液と混合することにより、ゲノム複製活性を回復した。この0.5MKClを含むグリセリン濃度勾配遠心にて分画した感染細胞RNPには、ウイルス成分として、NPとRNAポリメラーゼのみが存在することが、BioRadの装置を用いたウエスタンブロットにより確認された。 以上、インフルエンザウイルスゲノムRNA複製をモデル鋳型を用いて、試験管内で、その全過程を再現し、複製には、感染細胞内におけるNPとRNAポリメラーゼ、及び、宿主細胞由来の因子が、関与していることを明かにした。そして、現在、この因子の同定を行なっている。
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