マウス腹腔内マクロファージでの増殖能が低下している単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)の突然変異株を制限酵素切断分析したが、野性株との間に意味のある差異を見い出せなかった。そこで、50キロベース以上の巨大DNAを分画することのできるフィールドインバージョンゲル電気泳動を用いた解析を実施したところ、1種類のウイルスゲノムしか存在しないはずのウイルス粒子DNAを、変異ウイルス株でのみ、2種類のバンドとして分画することができた。HSV-1の変異株と単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)の標準的な株との間の型間組換え体を作製し、この突然変異の生じたウイルス遺伝子領域を探索したところ、HSV-1DNAのBg1II-O及びP断片を含む組換え体は2種類のウイルスゲノムを産生したが、両断片を含まない組換え体は1種類のウイルスゲノムしか産生しなかった。また、HSV-1DNAのBg1II-P断片は含むが、Bg1II-O断片を含まない組換え体は2種類のウイルスゲノムのうち副次的な方の産生量が明らかに減少するか、または、より奇妙な電気泳動像、すなわち、ウイルスゲノムDNAが4本のバンドとして分画させる泳動像、を示した。以上の結果から、HSV-1ゲノムのうち、18.5から27.6マップユニットの領域に2種類のウイルスゲノムDNAを産生させる変異が生じたものと推定され、この領域が、今回、解析したHSV-1変異株のマウス腹腔内マクロファージでの増殖能やマウスに対する神経病原性に関与しているのではないかと考えられる。
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