我々は長期間食餌を制限したマウスにおいては、体温の日周変動が見られるようになり、夜間から明け方にかけて体温が37℃から室温(23℃)付近にまで下降し、次の夕方までに再び37℃付近に上昇するという、いわゆる日周性仮性冬眠(daily forpor)状態にあることを見出した。これは十分にカロリーを与えられているマウスには決して見られない事象であり、エネルギー制限という環境下で自発的に獲得された適応形質であると考えられる。 この適応形態を考える上で、初めに注目されるのは、低体温における膜電位の脱分極化による細胞内へのCa^<2+>流入の毒性制御の問題である。この機序を考える一端として我々はエネルギー制限マウスと非制限マウスにおける数種の臓器中におけるCa^<2+>-ATPaseの活性を測定し、次の知見を得た。 実験にはコントロールマウスとして95kcal/週、エネルギー制限マウスとして48kcal/週の食餌を与えているマウスを用いた。脳・唾液腺でのCa^<2+>-ATPase活性はコントロールマウスに比し有意に低い。一方、肝臓、脾臓、腎臓におけるCa^<2+>-ATPase活性はコントロールマウス、エネルギー制限マウス間で有意差はなかった。このことから低体温下での細胞内Ca^<2+>濃度ホスメスタシス維持のために、Ca^<2+>-ATPase活性の上昇という機序は採用されていないということが明らかにされ、Ca^<2+>の膜透過性の変化、細胞内器官へのCa^<2+>蓄積の変化に今後、着目すべきことが示唆された。
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