研究概要 |
臭化メチルは薫蒸剤として広く利用されているが,吸入により様々な中枢神経症状を引き起こす.そこで,臭化メチルの脳組織への影響を調べるため,体重約300gのWistar系雄ラットに500ppmの臭化メチルを1日6時間,週3日,4週間の反復吸入曝露実験を行った.最終曝露終了後4日目に脱血死させ,直ちに脳を取り出し,氷冷下でGlowinski&Iversenらの方法に準じ小脳虫部,小脳体部,延髄,視床下部,線条体,海馬,中脳,大脳皮質に8分割し,20倍量の20mM炭酸水素ナトリウムを加えてホモジネートし,-40°Cで凍結保存した.CK活性をクレアチンリン酸基質・テトラゾリウム塩法,LDH(Lactate dehydrogenase)活性をWroblewski-La Due法,GOT(Glutamic oxaloacetic transaminase)活性をUV・Rate法で測定した.また,蛋白をRowry法で,臭化物イオン濃度をヘッドスペースガスクロマトグラフ法を用いて測定した. 部位別の脳内LDH,GOT活性はいずれの部位でも有意な変化は示さなかったが,CK活性はいずれの部位でも有意な低下を示し,特に視床下部,延髄では70%以上と他の部位よりも著明な活性の低下を示した. 脳の神経病理学的な検討では,1)尾状核一被殻の壊死病変,2)尾状核一被殻,視床および帯状皮質の神経細胞の萎縮およびニューロピルの染色性の低下が見られた.これは線状体に相当する部分であるが,同部のCK活性は著明に抑制されているものの,視床下部,延髄に比べるとその抑制の度合いは小さいことから,脳は部位間において臭化メチルに対する感受性の違いがあると考えられる. 一方,臭化物イオン濃度はいずれの部位でも著明に増加し,脳の部位における差異は認められなかった.
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