癌抑制遺伝子の一種と考えられているp53遺伝子の変異の有無は、種々の悪性腫瘍について調べられてきた。しかし、まとまった症例数の悪性胸膜中皮腫のパラフィン包埋組織中のDNAを用いた解析結果は未だ報告されていない。そこでp53遺伝子の変異の有無を悪性胸膜中皮腫のパラフィン包埋組織中のDNAを直接解析することにより明らかにする目的で本研究を行なった。 生前のアスベスト曝露歴が確認され、剖検後、病理医の診断によって悪性胸膜中皮腫と診断された7症例のパラフィン包埋組織の悪性胸膜中皮腫部位からDNAを抽出し、p53遺伝子の第5〜9exon領域をPCR(polymerase chain reaction)法によって増幅し、各領域の遺伝子変異の有無をSSCP(single strand conformation polymorphism)法によって解析した。また、今回の7症例中1症例では、蛍光色素を用いたCycle Sequencing法をシークエンサーにより実施し、p53遺伝子の第5〜9exon領域のDNAの全塩基配列を確認した。PCR-SSCP法では、今回の7症例のいずれにおいてもp53遺伝子の第5〜9exon領域の変異を認めなかった。また、Cycle Sequencing法によって確認した症例のp53遺伝子の第5〜9exon領域のDNAのいずれの塩基配列にも変異は認めなかった。 今後、検討症例数を増すとともにp53遺伝子の変異が高頻度であるといわれている肺小細胞癌を陽性対照群として今回の実験系の精度を確認する予定である。また、同様の検討をH-ras癌遺伝子についても実施する予定である。
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