研究概要 |
現在、我が国では寝たきり老人が増加し、社会問題となっている。高齢者ほど萎縮した筋肉の回復は困難なので、一度寝たきり状態になると全身の筋萎縮が急速に進行し、ますます寝たきり状態からの脱出が困難になる。従って、廃用性筋萎縮の進行を少しでも抑制することが重要なのである。しかるに廃用性筋萎縮の機構については明らかにされていない。我々は、先に廃用性萎縮筋における活性酸素の産生を初めて報告し、さらにそれが筋萎縮そのものを促進していることを示している。我々は萎縮における活性酸素の産生系について主に明らかにしてきたが、一方で活性酸素に対する防御系については依然不明である。そこで本研究では、抗酸化酵素の動態を検討し、その防御系を明らかにすることにより、活性酸素発生機序の解明を目的として行った。 superoxide dismutase(SOD)の内、細胞質に局在するCu,Zn-SODは筋萎縮進行に伴って増加し、ミトコンドリアに局在するMn-SODは減少した。SODは基質のO_2・^-によって誘導されるので、O_2・^-の産生は主に細胞質でなされ、ミトコンドリアでは減少していると考えられるまた萎縮筋ではO_2・^-産生性のxanthine oxidase(XOD)活性が有意に増加しており、これが細胞質におけるO_2・^-産生源であると思われる。O_2・^-産生性XOD活性の増加の機序には、我々が先に報告した萎縮筋における細胞内Caの上昇が関与していると推測される。一方、Cu,Zn-SOD活性の萎縮早期からの増加は、その反応生成物であるH_2O_2の産生が細胞質で早期から増加している事も併せて示している。ところが萎縮筋では、H_2O_2を代謝するglutathione peroxidaseとcatalaseの両酵素とも大きな増加を示さず、細胞質のH_2O_2濃度は萎縮早期から上昇していると考えられた。萎縮筋ではmicrosomeの中のFeが増加しており、この鉄の触媒作用により、細胞質中で上昇したO_2・^-とH_2O_2から反応性の非常に高い・OHが産生され、microsomeに脂質過酸化反応を引き起こすものと考えられる。
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