本年度は、研究計画のうち過去の記録の検索を中心に実施した。まず、すでにコンピュータ入力されている情報から、受療歴が明らかで、かつ比較的慢性に経過し致死的な疾病である悪性新生物の既往のあるものに限定し、近々の記録(1992年度分)から検索した。現在まで、8000件の死体検案書から上記条件に該当する210例についての検案書を調査した。主な調査項目は、治療を受けていた医療機関名、治療内容、退院日、外来通院状況、在宅医療及び訪問看護実施状況、最終受療日、死亡診断書交付の依頼過程、検案状況等である。多くのケースは一人暮らし等で死亡後発見によるものであったが、死亡した後に全く医療機関との連絡がとれなかった例や医療機関から検案依頼となった例も少数ながら含まれていた。在宅医療関連の検案は予想より少なく、また、在宅医療関連の事故による検案は今の段階ではまだ見つかっていない。しかし、在宅医療が推進されている現在、今後の増加が考えられ、継続調査によって該当例も得られると予想される。分析および解釈は今後の継続調査の結果を待たなければならないと考えられる。 なお、研究代表者が米国出張の機会を得たため、医療訴訟の多い米国での状況も同時調査中である。米国でも現在のところ明らかな在宅医療中の事故による訴訟はほとんど記録されていないが、早すぎる退院及び在宅医療への移行によって患者の状態が悪化し主治医を訴えた例、訪問看護を受けながら悪化し救急入院して死亡した患者の家族が在宅医療会社を訴えた例等があった。いずれも因果関係の立証が難しく有罪には到らなかったが、在宅医療における危険性は多々指摘されており、リスクマネージメントが重要視されている。 今後、監察医務院での調査を継続するとともに、米国の状況とも比較しつつさらに研究をすすめる予定である。
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