騒音によるヒトの自律神経系への影響とその個人内・間の差を検討する目的で、精神作業によるストレス負荷後に騒音を暴露し、心拍変動のスペクトル解析による自律神経機能の評価を行った。この評価は、被験者の心電からタコグラムを用いて心拍間隔を連続測定し、心拍変動の自己相関スペクトル解析と要素波解析により呼吸性洞性不整脈およびMayer-wave性洞性不整脈の成分変動係数(CCV_<RSA>とCCV_<MWSA>、それぞれ迷走神経および交感神経機能の指標)を求める方法によった。初めに予備実験で、1)呼吸速度とCCV_<RSA>値の関係を定式化して自由呼吸下での後者の値を前者から補正する方法を明らかにし、2)食後90分までは食事が両値に影響するため本実験は食後120分以上経過してから行うべきことを示し、3)運動後の2値の変動を調べ本実験は十分な安静の後に行うべきことを示した。 本実験では、以上の条件および被験者の喫煙・飲酒等の影響に配慮して、健康な若年非喫煙者11名を対象者とし、VDTによる暗算作業(90または45分)後の休息中に道路交通騒音(70または60dB Leq)または音楽を暴露した。その結果、1)精神作業負荷および騒音暴露のいずれも心拍および迷走神経機能への影響はみられなかった。2)精神作業負荷後には交感神経系の緊張がみられた。3)作業負荷なしで単独暴露した場合には交感神経系に影響を示さない道路交通騒音が、あらかじめ精神作業負荷によりストレスを与えた場合には、交感神経系の緊張をさらに亢進させた(精神作業負荷との複合影響の程度にはレベル影響関係が認められた)。4)物理レベルは同じでも音楽暴露の場合には同様の複合影響がみられなかった。5)これらの影響とパーソナリティとの一定の関連は認められなかった。
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