研究概要 |
環境中に存在する発癌性ニトロクリセンの代謝関連化合物であり、極めて強いDNA傷害を引き起こす6-アミノクリセンの代謝的活性化機構を解明する目的で、ラットとヒトチトクロームP450(P450)酵素による活性化について以下の要領で研究を進めてきた。 基質として、6-アミノクリセン(6-AC)とその代謝物トランス-1,2-ジヒドロ-1,2-ジヒドロキシ-6-アミノクリセン(6-AC-diol)を選び、酵素源としてラット肝と18例のヒト肝ミクロゾーム、精製P450酵素を含む再構成系及びヒトP450酵素をcDNA発現させたヒトリンパ芽球ミクロゾームを用いた。DNA損傷性は、大腸菌のSOS反応のumu遺伝子誘導を利用したサルモネラ菌TA1535/pSK1002と、この菌株にさらにアセチル転移酵素を導入したNM2009株を用い、菌体内に誘導されるbeta-ガラクトシダーゼ活性を指標に調べた。6-ACと6-AC-diolの活性化反応に関与するP450分子種を明らかにするために、P450特異抗体と阻害剤の影響を検討した。またヒト肝ミクロゾームによる代謝的活性化能とウエスタンブロッテイング法により求めた各P450分子種含有量並びに特異性のある既知の薬物酸化活性と相関性を調べた。またP450酵素に引き続いて反応に関与する酵素を予測するため、エポキシド水解酵素とその阻害剤並びにアセチル転移酵素阻害剤の添加効果を調べた。 検討の結果、6-ACは、ラットP4502B1/2及びヒトP4502B6/3A4によってN-水酸化を受け、引き続きアセチル転移酵素によって代謝的活性化されるが、ラット及びヒトP4501A1/2により6-AC-diolを経て究極体ジオールエポキシドに変換されることが示唆された。以上の知見は、ヒト肝ミクロゾーム中のP450分子種の存在量比の違いが原因となって変異原性物質の代謝経路が異なることがあり、このことが環境化学物質の生体に対する影響発現における個体差の一因となることが予想された。
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