デオキシノボ核酸分解酵素I(DNase I)の遺伝的多型は、血清、尿および諸臓器(膵、肝、腎等)から判定可能であり、その遺伝子頻度のバラツキは大きく、個人識別能は極めて高い。またDNase Iは、光、温度および湿度などの物理化学的刺激に対しても安定であり、様々な条件下にある斑痕から実施する個人識別には極めて優秀なマーカーになるものと考えられる。最近、精液DNase Iに血清や尿と同様な遺伝的多型の存在が示され、また、予備実験の結果、DNase I活性は精液中には高いが、女性体液中に証明できないことが判明し、新たな精液の遺伝マーカーとしての応用が期待されている。今回の研究では、まずポリアクリルアミドゲル等電点電気泳動法(IEF-PAGE)とDNase I活性染色法(DAFO法)とを組み合わせた精液斑からのDNase I型判定法を新たに開発した。この場合、精液斑のDNase I活性は適当な条件(0.3-1M尿素存在下)を選択することで効率よく抽出されることがわかった。次に、様々な条件下に放置して作成した多数の精液斑からDNase I型判定を行なったところ、-20℃、4℃および室温に約1年間放置してあった精液斑(精液量にして約0.3mu1に相当)のいずれからも正確なDNase I型判定が可能であった。驚くべきことに、37℃下で湿箱中に13週間放置しておいた精液斑からも正確な型判定が可能であった。さらに、精液・女性体液混合斑痕についてDNase I型を検査したところ、いずれも精液の型のみが正確に判定できた。以上の実験結果から、精液のDNase I型は法医鑑識分野において有力な個人識別マーカーとして有用であることが示された。
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