東京都監察医務院で乳幼児突然死症候群(SIDS)と診断された解剖例のうち、死亡前の状況が比較的はっきりしている22例(月齢1〜8カ月)の肺パラフィン標本につき、抗ヒトサーファクタント抗体(PE10)を用いて免疫組織化学的にサーファクタントの出現パターンを検討した。発見体位別にみるとうつ伏せ14例、仰向けないし横向き8例である。その結果、1例を除く総ての例で肺胞内に中等量から多量のサーファクタントが証明された。一方、肺胞II型上皮内にも大部分の症例でサーファクタントの存在を認めた。特に肺胞内における比較的多量のサーファクタントの存在は、従来から多くの研究者が指摘しているように、SIDSが死亡前の低酸素状態と深く関連していることを示唆している。なお、肺胞内にほとんどサーファクタント出現のなかった1例は、生前の健康状態に特に問題は指摘されておらず、死後変化による抗原性の消失の可能性が高いと思われた。しかし、乳児の発見体位からみた出現パターンには、うつ伏せ位ならびに仰向け位、いずれも大きな差を認めなかった。うつ伏せ寝とSIDSとの関連については、うつ伏せ寝がある特定の児にとって解剖学的にみて気道閉塞を引き起しやすいという説がある。また、単に鼻口部閉塞による機械的窒息をみているにすぎない、という意見も根強くある。しかし、死亡時仰向け発見の児の肺サーファクタント所見をみると、死亡前にはうつ伏せ発見の児同様、低酸素状態に陥っていたことを示唆しており、SIDSがすべて機械的窒息ではないこと、更にまたうつ伏せ寝を止めさえすればSIDSが完全に防げる、といったような単純な問題でもないといえる。確かに東京都観察医務院の全体集計からみればSIDSと診断された児の多くはうつ伏せ発見であるが、肺サーファクタント所見をみる限りでは、うつ伏せ自体はSIDSの原因ではなく統計上から挙げられる危険因子の一つにすぎない、と考えるべきであろう。
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