研究概要 |
近年の遺伝子工学の進歩によって量産されるサイトカインを用いた研究が可能になるにつれ、種々の病態生理におけるサイトカインの役割が明らかにされるようになってきた。この一環として、我々はサイトカインのインターロイキン-1(IL-1)が胃酸分泌抑制作用と抗潰瘍作用を持つことを世界に先駆けて見い出した(Biochem Biophys Res Commun 162:1578-1584,1989;Biochem Biophys Res Commun 173:585-590,1990)。そして、「免疫-脳-胃腸」軸という新しい臓器軸の存在を提唱し、消化性潰瘍の病因・病態生理に関する免疫神経内分泌学的研究を展開している(J Clin Gastroenterol 14:S149-S155,1992)。 そこで本年度の研究では、消化性潰瘍の病態生理における内因性IL-1の役割を検討する目的で、内因性IL-1産生刺激剤のlipopolysaccharide(LPS)を用いて実験動物での基礎研究を行った。その結果、以下の新知見を得た。 1.LPSの腹腔内投与によって、胃酸分泌および胃運動が用量依存性に抑制された。しかも、胃酸分泌抑制作用がプロスタグランディン系依存性であるのに対して、胃運動抑制作用はプロスタグランディン非依存性であることが分かった。 2.LPSの前投与によって、発生機序の異なる3種類の実験潰瘍(ストレス潰瘍、インドメサシン潰瘍およびエタノール潰瘍)の発生が用量依存性に抑さえられた。 3.これらLPSの作用は、LPS投与によっても内因性IL-1を産生できない遺伝的欠損動物では観察されなかった。 以上より、内因性IL-1も胃機能抑制作用と抗潰瘍作用を発揮することが明らかになった。これは胃潰瘍の病態生理にサイトカインのIL-1が密接に関与していることを示すものであり、「免疫-脳-胃腸」軸の重要性が確認された。同時に、生体内で強力な「抗潰瘍薬」が産生されていることを意味し、抗潰瘍薬の開発にも大きなインパクトを与えるものと確信される。
|