ロタウイルスは小児下痢症の主要病因であることが明らかにされているが、成人の下痢症患者よりロタウイルスが分離されたという報告はわが国では皆無である。われわれは最近重症の脱水・下痢症のため疑似コレラの診断のもとに隔離・治療された成人患者から本邦で初めてロタウイルスを分離した。これまでロタウイルスによる成人の重症下痢症例は免疫力の低下した老人においてのみ報告されているが、本症例には免疫不全などの重症感染症に至る要因は見当たらなかった。われわれは本症例ように免疫があると考えられる成人に重症の下痢症を引き起こしたロタウイスル株がこれまで報告されている株とは異なる特殊な株なのか、また小児間で流行しているロタウイスル株とは異なるのかという点について遺伝子レベルで検討を行なった。すなわち、患者の便中より分離されたロタウイスル株のエレクトロフェロタイプ、VP7血清型、さらにRNA-RNAハイブリダイゼーションによりゲノグループを決定し、従来報告されている株および同時期に小児間で流行していた株と比較した。その結果、分離されたロタウイルスは、エレクトロフェロタイプ、RNA-RNAハイブリダイゼーションより、従来から報告されているDS-1ゲノグループに属することが明らかにされ、またPCR法により決定されたVP7血清型もG2であり、DS-1ゲノグループ株として矛盾しなかった。さらに同時期に小児間で流行していたロタウイルス株を検討したところ、小児数例より本患者と同一の株が認められた。すなわち本研究は、小児間でのロタウイルス流行株が成人にも重症下痢症を引き起こしうることを遺伝子レベルで初めて証明し、この結果は消化器内科の分野において極めて意義深い結果をもたらすものと考えられた。
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