C型肝炎ウイルス(以下HCVと略)は個々のウイルス遺伝子間でゲノム構造の隔たりが大きく、また個人より得られたのウイルスゲノムの経時的変異も観察されている。特に構造領域中のエンベロープ領域に存在するHypervariable Region(超可変領域)は遺伝的多様性の際だって大きい領域であり、この領域にコードされるウイルス蛋白が血中のリンパ球の標的抗原になっていると共に、巧妙に宿主の免疫監視機構をエスケープしていくことによってウイルスの持続感染が成立していく可能性が示唆されている。このような機構によって固体内に形成されるウイルスの分子集団の分子多様性をQuasispeciesとよび、この変化がC型慢性肝疾患の進展に関与している可能性がある。今回我々は、輸血後に肝障害を起こしそのままC型慢性肝炎となった症例において、その起因血たる供血者のHCVゲノムとその症例より得られたウイルスゲノムの多様性の変化を解析した。Hypervariable Regionを含んだクローンは、供血者においては解析した7クローンがほとんど全て何らかのアミノ酸の違いを有していたが、受血者においてはそのクローンが、輸血後約1年半までの検体でほぼ均一なまま保たれており、ウイルス感染後早期においてはウイルス集団の多様性は少なく時間が経つにつれてQuasispeciesが増大していくと考えられた。しかしながら、受血者のクローンは供血者のクローンとは異なったものであり、新しい個体内においてその個体に適応したウイルスクローンが選択的に増殖している可能性が考えられた。この様にC型慢性肝疾患の成立、進展にはウイルス分子の多様性の増大とともに宿主の免疫監視機構エスケープしていく機構が重要であると考えられた。
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