研究概要 |
C型肝炎ウイルス感染は,他のウイルス感染と異なり,感染が慢性化し,引き続いて慢性肝炎・肝硬変・肝細胞癌を発症することが大きな問題となっている.ウイルス感染の慢性化の一つの機序として,Human Immunodeficiency Virusでは,ウイルスゲノムの変異と宿主免疫の関与が報告されている.そこで本研究では,C型肝炎ウイルスのゲノム変化と病態との関連について検討した. 異なる病態を有するC型肝炎25症例を対象とし,ウイルスのコア抗原領域から表面抗原領域について,各個体より10個の遺伝子をクローニングし,その塩基配列を解析し,個体内におけるウイルス集団のheterogeneity(quasispecies)を解析した.5例の急性肝炎例における塩基配列では0.85±0.62%の違いが個体内で見いだされ,5例の慢性非活動性肝炎例では1.73±0.90%,9例の慢性活動性肝炎例では3.05±1.27%,3例の肝硬変例では2.71±1.47%であった.このように同一個体内に存在するウイルスのゲノムの違いは,病態の進展に伴って有意に(P<0.01)高くなることが明らかとなった.また,3例においては経時的にゲノムの変化を検討したところ,病態の進展と相同してゲノムの変異が多くなっており,この変化はその間のトランスアミナーゼ値の平均値と一致していた. C型肝炎ウイルスの構造領域と免疫系の関与,とりわけ中和抗体との関連は,いまだ明らかにされておらず,検討し得た領域の変化と免疫系の関与についても不明である.しかし,今回の検討によってC型肝炎ウイルスの慢性化の機序の一つに,ウイルスのゲノムが次々に変化していくことによって,ウイルスが宿主の免疫系の攻撃から逃れ,その感染状態が継続していく可能性が示唆された.
|