ヒスタミンは、胃における最も強力な酸分泌刺激物質であり、その為、ヒスタミンH_2受容体拮抗剤(H_2ブロッカー)の登場が消化性潰瘍の治療に多大なる貢献をもたらした。しかしながら実際にはH_2ブロッカー抵抗性潰瘍が存在し、臨床上の問題となっている。私達はこのH_2ブロッカー抵抗性潰瘍の病因を明らかにする目的で、H_2受容体ダウンレギュレーションの機序を細胞レベルで解明することを試みた。私共は既にヒト胃癌細胞MKN45にヒスタミン受容体が存在し、ヒスタミンによるダウンレギュレーションが生じる事実を明らかにしている。そこでこのダウンレギュレーションの機序として、betaアドレナリンリセプターキナーゼ(betaARK)遺伝子の発現が関与しているか否かをNorthernblotting法により検討したところ、本細胞に大量のbetaARK遺伝子が発現している事実を見出した。さらにbetaARKアンチセンスオリゴRNAの投与により、betaARKの合成を停止させたところ、H_2受容体ダウンレギュレーションが抑制されることを見出した。従ってbetaARKはH_2受容体のダウンレギュレーションに関与しているものと考えられた。しかしながらこの抑制は部分的であったことから、H_2受容体に特異的なキナーゼが存在している可能性が示唆された。今後さらにbetaARKを含めたリセプターキナーゼに共通のオリゴヌクレオタイドを作成し、H_2受容体に特異的なキナーゼ遺伝子のクローニングを行う予定である。さらに得られたH_2受容体キナーゼ遺伝子のアンチセンスオリゴをモルモット単離胃壁細胞にも導入して、実際に正常壁細胞でのヒスタミンH_2受容体のダウンレギュレーション抑制についても検討を加えていきたい。この様にしてH_2受容体のダウンレギュレーションの機序を明らかにする事は、消化性潰瘍患者にみられる過酸の原因をも追求しうり、ひいては新しい抗潰瘍剤の開発にも貢献することが期待される。
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