(1)エンドトキシン投与による肝微小循環への影響-fluorescein isothiocyanate(FITC)でラベルした赤血球を用い肝類洞内赤血球速度を測定したところ、全経過を通じてpericentral zoneの肝類洞内赤血球速度の方が、midzoneよりも速かった。Lipopolysaccharides(LPS)1mg/kgの静脈内投与では、30分後より肝類洞内赤血球速度は徐々に低下した。このとき、門脈圧は45分後より上昇しはじめ、平均動脈血圧は一過性に下降するが5分後にはほぼ回復し、その後有意な変化を認めなかった。一方、LPS 5mg/kgを投与すると、15分をピークに肝類洞内赤血球速度の一過性の増加を認め、このとき門脈圧も上昇しており、hyperdynamicな状態が惹起されると考えられた。その後はLPS1mg/kg投与時よりも早期に肝類洞内赤血球速度の低下をきたした。これらの機序として、LPSによる血管作働性物質の上昇とその後の凝固線溶系の亢進が考えられる。 (2)慢性エタノール投与ラットでの検討-慢性エタノール投与群では、LPS1mg/kgの投与では対照群には認められない早期の肝類洞内赤血球速度の増加をきたし、最終的には対照群に比して早期に肝類洞内赤血球速度の低下をきたした。この一過性の増加は門脈圧の増加により、その後vasodilatorの産生により門脈圧が正常化するのと同時に肝類洞内赤血球速度は低下すると考えられた。肝類洞内赤血球速度の低下には、交感神経系を介した腸管血流ひいては門脈血流の減少や中心静脈圧の上昇による肝のうっ血の他に、類洞内の変化として、白血球の膠着、血栓の形成などによる細胞間相互反応やサイトカイン、活性酸素による血管抵抗の増加が関与している可能性が考えられた。この変化は対照群にLPS 5mg/kgを投与すると認められたものと似ており、慢性エタノール投与ラットでは、LPSの処理能力が低下しており、凝固線溶系の亢進をきたし易いことが示唆された。
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