研究概要 |
近年、ブラジキンが急性膵炎の発症・進展に関与するとの報告がみられる。そこで急性膵炎の重症化機序を検討する目的で、今回は新しく開発された、Bradykinin受容体拮抗剤 HOE 140のラット実験膵炎モデルにおける効果について検討を行った。 実験1.浮腫性膵炎におけるHOE 140の投与効果 Wistar系雄性ラット(BW 250g前後)を用いClosed duodenal loop(以下CDL)method(CDLの長さ1cm、CDL作成時間6時間)にて浮腫性膵炎を作成した。HOE 140を投与しないCDL群と、HOE 140 6mg/kgをCDL作成時より皮下注したHOE群について、血清膵酸素、腹水量、膵湿重量、膵組織像を12時間後に対比検討した。血清アミラーゼは、CDL群 19700±5300 vs HOE群11600±3100、血清リバーゼ値は、522±205 VS 236±104とHOE群で有意に低値を示した。また、腹水量、膵湿重量の増加もHOE群で軽度であった。組織学的には、HOE群で膵浮腫の軽減が顕著であった。 実験2.出血懐死性膵炎モデルにおけるHOE 140の投与効果 Wistar系雄性ラット(BW 250g前後)を用いて、CDL膵炎(長さ2Ccm,12時間)モデルにて出血懐死性膵炎を作成した。CDL作成開始時より生食を経静脈的に投与したCDL群とHOE 140 0,2mg/kg/hを投与したHOE群について、膵酸素値、膵湿重量、血清ブラジキニン値および病理学的検討を18時間後に行った。膵酸素値の経時的変化、膵湿重量は両群で差がみられなかった。血清ブラジキニン値は、CDL群 50.4±24.1、HOE群 46.5±17.7(pg/ml)であり、両群に有意差がなかった。膵肉眼所見では、両群ともに出血がみられたが、HOE群で増強される傾向にあった。組織学的には、浮腫、細胞浸潤、空胞形成および膵細胞懐死の程度は両群で差がみられなかったが、HOE群で、より高度の出血が認められた。 以上より、ブラジキニン受容体拮抗剤投与により、軽症の浮腫性膵炎モデルでは、浮腫を改善するものの、重症の出血懐死性膵炎モデルにおいては、出血を増強することが示された。これらの結果は、急性膵炎の進展と膵微小循環の関係を考える上で興味深い結果であると考えられる。今後投与量、投与時期などさらに検討が必要であると考えられた。
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