アルコール性肝障害(ALD)では類洞の毛細血管化が強く起こることが知られているが、ALDのどの時期から出現するかについて不明である。そこで、毛細血管化の出現時期と出現機序の特徴を明らかにするために、多種肝疾患患者から得られた肝生検組織について、第VIII因子関連抗原(VIII-Ag)とUEA-1の発現を免疫組織化学的に検索するとともに、肝組織内IV型コラーゲン(IV-C)とラミニン(LM)量についても測定した。対象はAL性の肝線維症(AL-F)と肝硬変(LC)、および非AL性の慢性肝炎(CH)とLCで、VIII-AgおよびUEA-1は、各々に特異的なポリクローナル抗体を用いて、酵素抗体間接法により染色した。また、肝組織内IV-CとLM量の測定は堤らの方法を用いた。VIII-Agの染色性についてみると、AL-Fの軽度の段階から、すでに類洞壁細胞に染色され、線維化の進展に従ってその染色性は一層明瞭となった。一方、非AL性では線維化が高度のCHでも、その染色性はAL-Fと比べて弱かった。AL性のLCでは類洞壁細胞でさらに明瞭に染色されたが、非AL性のLCでは、線維性隔壁に増生した血管内皮細胞にのみ染色されるにすぎなかった。UEA-1の染色性もVIII-Agのそれとほぼ同様であった。電顕所見では、ALDでは、線維化の早期からDisse腔に連続的な基底膜の形成と、内皮細胞のfenestraの数の減少が認められた。一方、非ALDでは、線維化の高度例になってはじめてALDと同様の所見がみられ、ALDのそれとは明らかに異なっていた。肝組織内IV-CとLM量についてみると、ALDでは非ALDに比べていずれも線維化の初期より等量比で増加していた。以上のことは、ALDではその早期の段階からすでに、類洞壁にIV-CとLMが増加するとともに、Disse腔には基底膜が形成され、また、類洞内皮細胞は機能的・形態的に血管内皮細胞に変化していることを示しており、肝類洞の毛細血管化が起こっていることを強く示唆していると考えられた。
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