食餌因子が腸粘膜局所防御機構に及ぼす影響として、成分栄養法をとりあげ実験を行った。 1.方法:Wistar系雄性ラットを実験に供し、成分栄養にて4週間飼育し、対照群には通常固形食を与えた後、以下の項目について比較検討を行った。(1)腸粘膜の絨毛の高さ、パイエル板総面積の算定、(2)腸管リンパ液のドレナージ採取によるリンパ流量、輸送リンパ球数の測定、(3)末梢血および腸管リンパ内リンパ球サブセットのFACSによる解析、(4)腸粘膜凍結切片を用いた粘膜内免疫担当細胞の動態の検討(免疫組織化学的検討)、さらに、(5)特異的抗体産生能の検討を行った。すなわち、抗原としてコレラトキシンを用い、2週間間隔で十二指腸内にpriming、challengeを行った後腸リンパ液を採取、ELISPOT assayにて抗コレラトキシン抗体分泌細胞数をIgG、IgA、IgMとクラス別に算定した。 2.成績:2群間で腸粘膜絨毛高、バイエル板総面積、および末梢血リンパ球サブセットに有意な差はみとめられなかったが、成分栄養摂取群では、腸管リンパでのリンパ球輸送は有意に低下し、そのサブセットについてもCD3、特にCD4が低下し、CD4/CD8低下がみられた。腸粘膜内リンパ球においても同様の結果がえられ、また、粘膜内IgA含有細胞数の有意な減少も認められた。しかし、腸管リンパ内リンパ球のコレラトキシンに対する抗体分泌細胞数については両群間で有意な差はみとめられなかった。 3.考按・結語:成分栄養が腸管リンパ系に抑制的に働く一方、特異的抗体産生能は保たれていることが示され、腸粘膜局所での免疫機構における食餌因子の重要性が示唆された。今後、成分栄養の特徴であるタンパク源がアミノ酸から組成されている点、脂質が極めて少ないという点など、どの因子がより重要な役割をもっているのかを検討する必要がある。
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