研究概要 |
治癒切除をおこなった原発生肺腺癌58例について、その病理組織標本を用いて癌細胞のもつ増殖能や浸潤転移能と患者の予後との関係を検討した。増殖能の指標としてはonestep NOR染色をおこない、それにより特異的に染色される活性化した核小体形成部位(AgNOR)の個数を計測して評価した。AgNORの個数は58例の平均値が4.0であったため、平均値より多い群と少ない群に分けて予後との関係を検討した。浸潤転移能の指標としては、転移する時には必ず破壊しなければならない癌細胞巣周囲の基底膜の保存状態を基底膜の主要構成物質である4型コラーゲンを免疫染色することによって判定し、指標とした。9割以上の基底膜が連続性に線状に染色されるものを基底膜がよく保存されている群(連続群)とし、基底膜の消失しているものや1割以上の基底膜が断片的に染色されるものを基底膜の保存が悪い群(非連続群)として二群に分けて検討した。AgNORの少ない群が多い群より、基底膜が保たれている群が非連続群よりそれぞれ有意に(P<0.05,P<0.01)予後良好であった。病期での検討では、AgNORについてはI期の患者では両群間の予後に差がなく、III期のみで違いを認めた。一方、4型コラーゲンについてはIII期ばかりでなく、I期の患者についても連続群が非連続群より予後良好であった(P<0.01)。以上の結果より、増殖能を浸潤転移能どちらも患者の予後を左右する因子ではあるが、早期の病期では癌の増殖力よりも転移する能力が予後を不良にしていると考えられた。 さらに、基底膜を溶解する蛋白分解酵素の一つであるカテプシンBの癌細胞での発現を免疫染色にて検討したところ、カテプシンBの発現の多さと4型コラーゲンの非連続性の間に有意な関連を認め(P<0.05)、癌細胞巣周囲の基底膜の破壊に癌細胞がもつ蛋白分解酵素が関連していることを強く示唆された。
|