健常成人男子5名、肺気腫疾患5名を対象とし、胸部・肺部の前後・左右の動き、胸郭の上下の動き、胸鎖乳突筋と胸郭筋の活動及び換気量を安静呼吸、吸気抵抗負荷、呼気抵抗負荷、過換気、抑臥位のそれぞれの場合について測定した。 (1)健常者においては、各部の動きは吸気時に増加する方向に変化した。胸郭の上下の動きは吸気時に胸郭を挙上する方向に変化した。 (2)健常者においては、いずれのmaneuverでも腹部の前後の動きがもっとも大きかった。 (3)健常者においては、過換気時に胸郭の上下の動きが有意に大きくなり、呼吸補助筋が動員されていた。 (4)健常者においては、抑臥位で腹部の前後の動きが有意に大きくなり、胸郭の上下の動きが小さくなって横隔膜中心の呼吸途なった。 (5)肺気腫患者においては、吸気時に腹部の前後・左右の動きが小さくなるparadoxical motionがみられ、呼吸抵抗負荷、過換気でさらに顕著となった。逆に抑臥位では横隔膜の収縮力が改善され、paradoxical motionが減少するpostural reliefがみられた。 肺気腫患者においても、健常者と同様に過換気時に胸郭の上下の動きが有意に増加した。 (7)肺気腫患者と健常者を比較した場合、吸気抵抗負荷時に肺気腫患者の胸郭の上下の動きが健常者に比べ有意に大きく変化し、同時に胸鎖乳突筋、胸郭筋の活動の増大が認められた。 以上より、肺気腫患者では既に横隔膜の収縮力は減少しており、吸気抵抗負荷のようなさらに吸気筋力を必要とする場合には、fatigableな胸鎖乳突筋等の呼吸補助筋を動員して換気を保とうとする。そのような場合には胸郭の上下の動きが増加する。したがって慢性閉塞性肺疾患患者の胸郭運動は上下の動きを含めて評価することが重要である。今後は、患者の呼吸機能と対比し、呼吸不全の進展に伴って胸郭運動が如何に変化するかを検討する。
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