本研究では、肺循環系におけるK^+チャンネルオープナ-の血管拡張作用をラットの内皮細胞温存および剥離肺動脈リングで検討した。雄のSprague-Dawleyラットをネンブタールで麻酔後に心肺を一塊として取り出し、実体顕微鏡下に主肺動脈の血管リングを作成した。21%O_2と5%CO_2ガスでbubblingした38℃のEarle's salt solutionを満たしたOrgan bath中で等尺性反応を測定した。80mMKClで最大収縮力を測定した後、50nMのフェニレフリンで前収縮させたリングに10muMのアセチルコリンを投与し、内皮細胞が温存されていることを90%以上の拡張反応がおきることで確認した。同容量のフェニレフリンで前収縮後に、ATP感受性K^+チャンネルオープナ-であるNIP-121 1muM投与により肺動脈血管リングの拡張反応が観察されたが、この反応はATP感受性K^+チャンネルの選択的ブロッカーであるグリベンクラミド10muMによりほぼ完全に抑制された(74.9±4.9 vs 5.0±5.0%、p<0.05)。内腔を擦過して作成した内皮剥離血管リングでは、10muMのアセチルコリンによる拡張反応は消失していたが、NIP-121による拡張反応は温存されていた(56.9±1.5%、NS vs control)。さらに肺血管拡張作用を有する一酸化窒素(NO)の合成阻害剤であるNitro-L-Arginine 100muMの存在下でNIP-121 1muMの作用をコントロールラットと低圧チャンバー内で飼育して作製した低酸素性肺高血圧ラットで比較したが、肺高血圧ラットの肺動脈リングで拡張反応は増強していた(58.1±2.7 vs 78.6±2.6%、p<0.05)。以上よりATP感受性K^+チャンネルオープナ-であるNIP-121が内皮細胞非依存性に肺血管拡張作用を有することが確認され、さらに同反応が肺高血圧ラットで増強している可能性が示唆された。今後、覚醒ラットにおいて肺血管抵抗への効果および体血圧への影響等についても検討をしていく予定である。
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