胎児の肺は子宮内の低酸素環境下にあるが、新生児の肺上皮は呼吸の開始によって酸素分圧の急上昇にさらされる。このような酸化ストレスの急上昇に対する適応機構を明らかにするため、抗酸化剤であるグルタチオンの細胞内濃度を制御しているGGT(gamma-glutamyl transpeptidase)の発現を、In vivoおよびIn vitroの実験系を用いて検討した。 1)、妊娠18日齢から生後8週齢のラットの肺におけるGGT遺伝子の発現をノーザンブロッテイング方を用いて検討した。GGT遺伝子の発現は、妊娠18日齢から認められ生後4週齢には最大値に達し、GGT酵素活性の誘導パターンとほぼ一致した。RNAの分子量は発達にともなって2.1Kbから2.4Kbにシフトし、胎仔期と生後発達期では異なった遺伝子が発現している可能性が示唆された。 2)、これまで報告されている3種類のGGT遺伝子の特異的配列をプライマーとしたRT-PCR法を用いて、各発達期に発現しているGGT遺伝子の分子種を検討した。その結果、胎仔期には腎臓型の分子量2.1KbのmRNAが、生後発達期には肝臓型の分子量2.4KbのmRNAが発現することが明らかになった。 3)、腎臓型から肝臓型への遺伝子発現の切り替えの機構を探るため、妊娠18日齢のラット胎仔の肺から上皮細胞を分離精製し、3%および21%の酸素濃度環境下に培養した。3%酸素濃度下では腎臓型のGGTmRNAが、21%酸素濃度下では肝臓型のmRNAが検出された。 4)、以上の結果から、肺のGGT遺伝子は発達段階に対応した発現制御を受けており、酸素刺激に関連した因子が遺伝子発現の制御に関わっていることが強く示唆された。
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